先日知人とある串焼きで有名なお店で食事をする機会がありました。

通された席はテーブルが4,5卓ありカウンターとは壁で仕切られています。とはいっても出入りするところはオープンで完全に閉ざされているわけではありません。

そこが一つの空間になっていると思っていただければ結構です。

そこで7~8人ほどのグループがいました。お酒がある程度進んでいたのでしょう結構盛り上がっていました。かなり声がうるさく聞こえます。知人の声が聞き取りにくい状態です。お互い聞き直すようなことを繰り返すはめになりました。
そうなるとせっかくの美味しい料理も台無しになってしまいます。店の方に席を替えられないか聞いてみましたが、あいにく満席で断られました。心の中でこの店はもう二度と来ることはないだろうなと思いました。

このような音の問題は居酒屋さんなどでよくあることなのですが、店の内装がかなり関係しています。音は堅い材質の素材には強く反射します。これを「反響」といいます。例えば床が板張りの部屋と絨毯の部屋で手をパンと打ってみると違いがよく判ります。

先ほどの店のように壁で空間を仕切ると反射する距離が近くなりその中で壁、天井、床など反射を繰り返すことになり、いわゆる「残響」という状態になります。残響が多くなると騒音に感じます。
こうなると会話が聞きづらくなるため、自然に声が大きくなります。ますます騒音の度合いが増幅しその空間では「うるさい」状況になります。
皆さんもおそらくそんな経験が一度や二度あるかと思います。

そもそもなぜ残響が生まれるのか。ということですが、目の前のスピーカから音が出るとします。そのスピーカから出た音が直接耳に届く音を「直接音」といいます。その音が壁に反射してから耳に届く音もあります。それが反射音です。さらに天井に反射したのち壁に反射して耳に届く反射音もあります。
この3つの音は元々同じ音ですが、耳に届くまでのわずかな時間差が生まれます。この時間差がいわゆる「響き」と感じられるわけです。
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残響がうまくいかされている空間といえば教会があります。讃美歌を歌うコーラス隊の声やパイプオルガンの荘厳な響きなど教会内の残響効果がとても有効です。ただし牧師さんの肉声はその響きが災いし、やや聞き取りにくい状況になります。

例えばトンネルの入り口と出口に立ち、そこで会話をする状況を思い浮かべてください。残響が大きすぎてほとんど会話になりません。
逆に、ホテルのラウンジを思い浮かべてください。天井が高く壁の仕切りもありません。床には毛足の長いじゅうたんが敷かれています。
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とても静かで、小さな声で話しても十分に会話ができます。ほかの席のコーヒーカップを皿に置くわずかな音でも聞こえます。こういう空間では残響がほとんどない状態です。

先ほどの残響が多い空間を改善するには音の反射をできるだけ抑えることが重要になります。簡単な方法として壁や天井に布製のものを取り付けます。カーテンなどを利用するといいです。テーブルには布製のクロスを敷くのも効果的だと思います。

事務所の天井などで虫が食ったような変則的な穴が無数に空いている白いボードを見かけたことありませんか。実はこの「虫食い」に音を吸収する効果があるのです。むやみな反響を抑えてうるさくならないようにできているのです。

商業空間を設計する場合、ほとんど見た目のデザインに意識が強くなることが多いです。ほとんどのところで「音」や「残響」に関して意識されるところはないと思います。ですから先ほどの虫食いボードなどは商業的なデザイン優先の場所では使われることが少なくなってしまいます。

「音」や「残響」のことを意識して設計される場所はせいぜいコンサートホールや特殊な無響室、あるいは音楽スタジオのようなところくらいです。残響が極力出ないように設計されています。
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ついでに言うと、残響を電気的に作ることは可能ですが、消すことはできません。カラオケのエコーなどは電気的に残響を作っている身近な例といえます。一つの音の残響は心地いいのですが、複数になると不快に感じます。

さきほどの例のように、うるさく感じると食事も美味しくいただくことができません。目には見えない「音」や「残響」のデザインも、空間設計には大切な要素だと思っています。