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「このまま死んじゃってもいいかな、もう」とぼーっと考えている一雄だった。

38歳の一雄は会社をリストラにあい、妻はしょっちゅう朝帰りで離婚寸前、息子は中学受験に失敗してからというもの口も聞かず、家庭内暴力という事態になっていた。

家の中は散らかったまま、洗濯物も山のような状態だった。まさに家庭崩壊状態だ。

終電を降りて、駅前のベンチでウィスキーを飲んでいた時だ。
1台のオデッセイが停車し、「遅かったね、早く乗ってよ」 と声をかけられる。

中には橋本父子(おやこ) が乗っていたのだが、その親子は実は5年前に交通事故で亡くなっている。

妙な車に乗り合わせることになったのだが、 不思議に怖さはなかった。

そこから、奇妙なドライブが始まる。

一雄の父親はガンで危篤状態にあった。

一雄は中学生頃から父のことが大嫌いになり、今でも疎遠な状態にある。
なんでも自分のいう通りにしないと機嫌が悪い昔気質の父の事が大っ嫌いだったのだ。 

このドライブは不思議な事に、過去に戻れるのだ。
しかし、その時その場所はドライバーである橋本さんとその息子の健太くんだけが知っている。

そしてある時不意に一雄の父 、忠雄が現れる、しかも父の二十数年前つまりいまの一雄と同じ年齢の38歳の父親だ。
この目の前で起こっていることがよく飲み込めずにいると、「お父さんやら呼ばんでええ。ワシら、ここじゃ朋輩(ほうばい)じゃけん。五分と五分の付き合いじゃ。お前はカズで、わしは・・・・・そうじゃの、チュウさんでええわ」

それから、いろんな場面に遭遇する、そして妻のこと、息子の本当の気持ちが少しずつわかってくる。
父としてその気持ちを理解してやれなかったことを後悔する気持ちが膨らんでいく。

そしてまたあんなに嫌いだった父のことも誤解や思い込みがあり、思い違いがあったことに気がつく。 

これまでの自分の考えや行動が間違っていたことに気がつかされた一雄は、いま何ができるのか模索する。
しかし、どんなことをしても現実を変えることはできないということを思い知らされる。

自分は本当に死んでしまうのか、ならば残る息子と妻にはせめて幸せになってほしいと、必死でできる限りのことを思いつくまま行動する。



もちろん荒唐無稽なストーリーであることは誰の目から見ても明らかである。
しかし、不思議にこの物語に乗っかっていってしまう。


父親との関係、そして息子との関係性はどうなのか、またどうあるべきなのか。
誰もに共通する課題だろう。

時空を超えて物語が進行するというところはいささかSFチックではあるが、この物語は実にヒューマンドラマである。3組の父と子の関係性がいたるところに散りばめられている。

父と子の男同士のコミュニケーションはとても難しいということは、男性諸氏なら誰もが理解できることだろう。

読んでいてやはり自分自身のことを重ねて想像したりした。


実に面白かった。間違いなく秀作である。