星野一彦と繭美の2人で話しは展開します。

一彦が交際していた5人の女性に別れ話をしに行く物語なのですが、なぜか「繭美」という女性がその付添人です。
そして「この繭美と結婚するから別れてくれ」というのが理由なのです。

5人の女性もそれぞれ個性があり盛り上げてくれます。


繭美という女性を紹介しておいたほうがいいですね。

まず、髪の色はブロンドです、色白で端正な顔立ちのようです。自称ハーフらしいですが日本語はペラペラです。とここまでは凄い美女を想像しますが、まったく違います。

身長190㎝、体重200㎏の巨体で、アブドーラ・ザ・ブッチャーのようだと表現されています。喧嘩もめっぽう強いです。
注)アブドーラ・ザ・ブッチャーとはその昔活躍した悪役プロレスラーです。

常に辞書を持ち歩いていますが、相当ペンで塗りつぶされています。
自分とそぐわない言葉は塗りつぶして抹殺しています。
そしてことあるごとに「見ろよ、私の辞書に○○という言葉はない」と言って辞書を見せるのです。その○○の中には「常識」「気遣い」「マナー」「悩み」などがあります。
「もしかしたら塗りつぶされている部分の方が多いのでは?」という一彦の言葉もあります。

1番厄介なのはその性格で、人が困ったり、嫌がることを1番の楽しみとしていることです。
そして凶暴です。傍若無人とは繭美のためにある言葉ではないかと錯覚するほどです。
でもこの傍若無人ぶりが半端なく面白いのです。
伊坂さん、よくぞこの強烈なキャラクターを産んでくださった、と言いたいです。

僕は読んでいてマツコ・デラックスさんを繭美にダブらせていました。
(ご本人には大変失礼かもしれませんが)


もう1人の一彦ですが、全ての行動に計算がなく、人に好かれる性格で一言で言えばいい青年です。
ただし、女性に対して五股をかけてなければ、という注釈が入ります。
幼い時に母親を亡くしていることが影響しているのかどうかはわかりません。

一彦と繭美の会話がたまらないですね。
これは伊坂作品にはよくあるウィットに富んだ会話で僕のお気に入りの部分です。
「グラスホッパー」や「マリアビートル」にも通ずるところです。
この「分野」で、彼の右に出る人はいないのではないかと思います。
(この「分野」ってそんな「分野」があるのかわかりませんが)(笑)

伊坂さんが創造してくれる世界って本当にいいですね、僕にはどストライクです。
今回もこの2人がやってることは相当ハチャメチャで、犯罪になるようなこともしていますが、知らない間に応援してしまう、というパターンにはまってしまいます。

文句なく面白い作品だと思います。
5人の女性に別れ話を切り出した後の第一声が共通して「あれも嘘だったんですね」で始まるところも遊び心があって面白いです。

あとがきにありましたが、太宰治の「グッド・バイ」という未完にして絶筆となった作品を参考にして書かれているとか。それを聞くとそちらも読んでみたくなります。

摩訶不思議な伊坂ワールドの扉を開くのは貴方次第ですぞ。